小学5年生の女の子と口論になった。頭はいいが、生意気であった。
日ごろの態度は私を悩ませたが、この日、とうとう我慢の限度を超えた。「辞めろ!」と言ってしまった。私はその子が嫌いではなかった。「じゃ辞める!」と言い返してきた。他の子が、心配して、何か言ったが、私は答えなかった。その子も黙ったまま作業を続けていた。
それから、教室は、二週間の夏休みに入った。二週間後、その子がまたやって来た。「先生、今日で辞めるからね」と言った。私は黙っていた。今日はやけに元気がいい。いつもの生意気な性格が甦っている。他の子が騒ぐと、「先生に辞めさせられちゃうよ」と悪たれをつく。
いつものようにワイワイ騒ぐ。いつものように、私の言うことを聞かない。いつものように、作業の手を抜く。いつも通りである。皆が帰る時間になった。連中が帰る時は、いつもドアを開けて帰るか、私が注意するとバタンと大きな音を立てて閉めるかどちらかである。帰る時も遊ぶ。
私はドアの前に立つ。「気をつけて帰りなさい。ドアは静かに閉めろよ」いつもの挨拶をする。皆、ガヤガヤと帰っていく。
最後にその子が来た。私は黙って立っていた。言葉が出なかった。その子も黙っていた。私を見ようとしない。黙って下を向いていた。
やがて、おもむろに外に出ると、その子は、そっと、静かにドアを閉めて帰って行った。いつもと違っていた。3年前の夏の終わりのことである。その後、会ってない。
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